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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



ぼこりと異常に浮かび上がった血管の周りにこびり付いているのは、ぱさぱさに乾いた確かな自分の血。
クラウドに噛み付かれた際に、やはり出血していたらしい。
恐る恐る首筋を撫でれば痛みが走る。



(このまま放っておいたら駄目だ…悪化するかもしれない)



医療は南にとって専門外の分野だが、放っておいて良い傷でないことは素人にもわかる。
傷口から感染症にでも掛かれば、それこそ本当に命を落とし兼ねない。
怪我した箇所は急所でもある首。
無視し続ける訳にはいかない。

窓の外を見れば、横殴りの雨がばたばたと硝子を打ち付けていて昼か夜かもわからない。
しかし目覚めてから数時間程ではない、それなりに時は過ぎたはずだ。



(手当てとなると、道具が揃った医療病棟…行けるかな…)



怯えながらも、恐る恐る持ち上がる二つの黒い獣耳。
ぴょこぴょこと辺りを伺うように聞き耳を立てれば、先程とは打って変わり近くで物音は聴こえなかった。
恐らく近くにゾンビ化人間はいないのだろう。
両手を胸の真ん中で握りしめたまま、南は恐る恐る立ち上がった。

此処まで逃げ遂せて、正気を保った団員には一人も会えなかった。
遠くまで微かな物音を拾えるこの耳も、会話らしいものや通常の人が発する声というものは聴き付けていない。

もしかしたら、この教団内でまともな人間は自分だけなのかもしれない。



(まともかどうかも、わからないけど…)



半ばウイルスを体に保持している状態で、断言はできないが。
それでも正気は保っている。

ゆっくりと部屋の唯一の出入口であるドアに近付く。
鍵を外し、恐る恐るドアノブを回した。



キィ…



少しだけ空けたドアの隙間から覗き見る。
停電したまま、暗く広い教団の廊下はしんと静まり返り人気はない。

まるでこの世界に独りきりのような錯覚に陥りながら、南はごくりと緊張気味に唾を呑み込んだ。



「どんな罰ゲームなの、これって…」



神様、私何かしましたか。

そう心の中で訴え掛けながら、泣く泣く一歩を踏み出した。



不気味に続く、長く先の見えない暗闇に向かって。






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