第82章 誰が為に鐘は鳴る
「よし。かけてみるか」
うむ、と一人結論を出したバクが意気込んで受話器を手に取りダイヤルを回す。
やっぱりか、と想定内の彼の行動に、フォーは髪色同様、色素の薄い桃色の眉を眉間に寄せた。
「…ロリコン野郎が」
ぽつりと堪らず吐き捨てた言葉は、バクにとっては禁句の言葉。
ピシリと固まるバクの姿に、あ。とウォンが声を漏らした時には既に遅し。
「っロリコンではないわぁあああ!!!」
罵声を撒き散らし、顔を憤怒で真っ赤に染め。
再びフォーへと飛び掛るバクに、再び支部長室が騒音に塗れる。
「貴様こそ良い歳して幼女の格好などしおって…!ロリコン気質でもあるんじゃないのかッ!」
「はぁ!?結晶体であるあたしを人間と同じにすんなよ!テメェの方こそ年齢見直して相手選べ!このロリコンバク!」
「だからロリコンロリコンと…!」
「わーッ!バク様!蕁麻疹の出過ぎです!倒れますよぉおお!!」
どたん、ばたん。
がしゃん、ばりん。
どすん、めしゃっ。
ばりばり、どかん。
凡そ人が暴れる際に発しない暴発のような音が、支部長室から溢れ出る。
再び床に転がった鮮やかな茶器は、見事木っ端微塵に潰されてしまった。
「さっさとこの部屋から出ていけ!」
「はんっやなこった!」
「バク様!フォー!」
騒音と罵倒が飛び交う中。
バクの手から離れた黒い受話器が、支部長机に転がる。
『ツー…ツー…』
そこから零れ落ちているのは、連絡先と繋がっていないことを示すビジートーン。
一定間隔に、その音だけを無情に奏で続けていた。