第81章 そして誰もいなくなった
「く…そ…ッ」
「…室…長…」
ミシミシと大きく咎っていく牙。
肌から浮き上がる血管。
明らかなゾンビ化現象が起きているコムイの体に、力なく凭れかかる亡霊の細い体。
「おまえ"の…さっきの言葉…うれじがった…」
同じくウイルスに犯されてゆくのは、体はリナリーの生身のものだからだろうか。
力なく呟く声は儚くも、感情に満ち溢れていた。
忘れ去られなどしない。
そうしかと伝えてくれたコムイに、安心しきった子供のような顔で目を瞑り身を預ける。
そうして意識を沈めゆく亡霊の隣で、コムイもまた意識を深い闇の中へと落としていった。
「ガァァアア…」
「グルルル…」
ずるずると衣服や足を引き摺り、教団内を彷徨う亡者。
そこに正気を保った者は一人としておらず、広い教団内に響くは呻き声だけ。
閉めきった密室の中。
淀めく気配と呻き声。
生存者は一人残らず消され───
そして誰もいなくなった。