第81章 そして誰もいなくなった
泣き叫ぶコムイに呆れ顔の亡霊。
その傍で状況を理解できずに座り込んでいたクロウリーは、はっとした顔で一点を見つめた。
その両目に映っているのは、亡者の如く群がってくる団員達の中で同じに呻き足を引き摺る、アレンとラビの姿。
「ア…アレン!ラビ!無事だったであるか…!」
ジャスデビとの戦闘で昏睡状態に陥っていたクロウリーの頭の中は、その時で止まったままだ。
方舟の中で最後に別れたアレンとラビは無事だったのだろうか。
その不安が一気に安堵へと変わったのだろう。
堪らず立ち上がると、脇目も振らずクロウリーは駆け出した。
「わっ馬鹿!クロウリー行っちゃ駄目だ!」
亡者の群の中へと。
「アレン!ラビ!良かったである…!」
コムイの制止も聞かず、感極まった表情で強くアレンとラビの体を抱きしめる。
その目には優しき涙。
自分の体のことよりも、真っ先に仲間の無事を願うクロウリーは彼らしい性格といえよう。
しかし今は心優しきその心が、仇となってしまった。
「よかっ───」
た、と言い切る間もなく。
がぶり、とクロウリーの肩に深く食い込む二つの牙。
アレンとラビのもの。
瞬間、
「ガァアアアッ!!!」
「あぁあぁああーっ!言わんこっちゃない!!」
再びゾンビと化してしまったクロウリー。
止めようと手を伸ばしたままのコムイが悲鳴を上げる。
折角ワクチンを使って人間へと戻したというのに、これでは元の木阿弥ではないか。
「ぐぁあっ!?」
絶望に陥ったコムイの隙を突いて、他の亡者達が魔の牙を伸ばした。
白いローズクロスの団服の上から、牙が肌に食い込む。
「ガァッ!」
「うっ」
それは傍にいたリナリーの体を乗っ取っている亡霊までも。
「ギャーッ!僕のリナリー!神田くんブッ殺ス!」
ゾンビ化した神田に噛み付かれ、力なく崩れ落ちる亡霊。
兼、リナリー。
怒りの声を張り上げていたコムイもまた、すぐさま体を巡るウイルスに犯された。
ドクンドクンと体内の内側から鳴り響く嫌な気配に、歯を食い縛る。
(クソ…これまで…か…)
コムイの記憶が正しければ、もう無事な人間は自分以外にいない。
此処で倒れてしまえば、本当の意味で全滅だ。