第81章 そして誰もいなくなった
「そうだ…私は何やら少女に…変な薬を飲まされて…それから…ええと……え?」
朦朧としながら頭を抱えるクロウリーは、以前の優しき気弱な彼へと戻っていた。
その言葉を聞くに、やはり亡霊である少女にコムビタンDの原液を投与されたらしい。
クロウリーの血から作られたワクチン。
それは巨大なコムリンEXの注射器の中に、たっぷりと出来上がっている。
これならば窮地から脱するのも訳はない。
「さぁ!ワクチンさえ手に入ればこっちのもんだぃ!いっけぇー!コムリンEX!」
『サーーーー!!!』
コムリンEXに縛られていた縄を解いてもらったコムイが、ドヤ顔満載で胸を張り立ち上がる。
それはまるで、強い希望の光のようだった。
ここまで心強いコムイの姿を見たことがあろうか。
リーバーが健全だったならば、涙を流していたかもしれない。
コムイの命に従い、巨大な注射器を構えたコムリンEXが威勢よく食堂の中央に飛び出す。
刹那。
ドッ…!
白い機械のボディにめり込んだのは、巨大な両付き刃。
見覚えのある、とある元帥の攻撃特化型イノセンス。
瞬間、巨大な刃に腹を貫通させられたコムリンEXは悲鳴の一つを上げる暇もなく、内部から爆破し砕け散った。
ドギャン!と鳴り響く爆破元から飛んできた機械の破片が、コムイの頬を掠る。
つぅ…と赤い横線の入った皮膚を伝う、真っ赤な雫。
「………」
沈黙。
「コムリンEXぅうううぅぅぅうう!?!!」
からの雄叫び。
「うわぁああん!!!」
「おまえ"って…すごいのかすごくないのか、わがらない…」
爆死したコムリンEXの残骸の一部である脚を抱いて泣き叫ぶコムイに、亡霊は蒼白い顔でぽつりと呟いた。
勇ましく見えた姿は一瞬だけ。
すごぶる天才なのか、ただの阿呆なのか。
コムイ・リーという人間は亡霊には計り知れないものだった。