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科学班の恋【D.Gray-man】

第81章 そして誰もいなくなった



「な、まえ…百年……ぜんぶを…?」



数え切れない程の人の名。
何故聞き覚えがあったのか。
何故懐かしさを感じたのか。
何故哀しみを覚えたのか。

忘れもしない。
記憶は壊れても、潜在意識の中に在るもの。

その名は全て、使徒計画実験で命を削られた者達の名だ。



「…君達を置いていくつもりなんてないさ」



コムイの口元に、微かな微笑みが浮かぶ。



「君達だけじゃない。この十字架の下、犠牲になったもの全部、僕が室長としてずっと背負ってくつもりだ。それだけしかできないけど、それだけはできる」



教団の人柱となっている、エクソシスト達だけではない。
教団の為に働いている、部下達だけではない。
教団の為に命を散らした者達も皆、一人も残さず。
拾い上げて抱えていく覚悟で、コムイは白いローズクロスを背負ったのだ。



「だからこんな化けて出なくたって、忘れたりしないよ」

「………っ」



優しく全てを赦す、包み込むような微笑み。
そんなコムイを前にして、亡霊はわなわなと唇を大きく震わせた。



「…ほ……ほんどか…?」



弱々しげな囁き。
濁った声は力無く、縋るようにコムイに問い掛ける。

じんわりと、その目には光る雫を浮かべて。



「うん」

「っほんど、だな…?」

「うん」



震える亡霊の両手が、コムイの服を掴む。

本当は。

憎しみもあったが、長年独りで浮かばれることもなく教団で彷徨い続ければ、いつしか別の感情が芽生えていた。
誰にも気付かれることなく、一人彷徨い続けるのが嫌だった。

誰かに見て欲しかった。
誰かに認めて欲しかった。
誰かに名を呼んで欲しかった。

声を発すれば反応を返してもらえる。
そんな当たり前のことを切に欲した。



「うぞ、だったら…今度こぞ許ざないならな…っ」

「嘘なんかじゃないよ。君を独り此処に置いていったりしない」

「っ…!」



独りがもう、嫌だっただけだ。

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