第81章 そして誰もいなくなった
『ゴ主人二手ヲ出ギャンッ!』
「コムリン!」
『ガ…ガ、ピ…』
必死に外れた頭でクロウリーの腕に食らい付くも、離れた胴体は頭と連動しているのか。
クロウリーの容赦ない拳に叩きのめされた機械の体が壁に激突すれば、忽ちにコムリンEXの顔も壊れた機械音を上げながら床に転がり落ちた。
「ヒッヒッひっヒッ…残るばおまえ"ひどりだ…」
「う…ッ」
コムビタンDをクロウリーに原液投与させた使徒実験の亡霊である少女には、ゾンビ達も一目置いているのか。
何故か彼女に乗り移られたリナリーには、誰も襲い掛かろうとしない。
細いリナリーの体でコムイの体を床に押し付け、逃げ場を失くす亡霊。
ゾンビ達より遥かに大きく鋭い牙を剥き出し食らい付こうとするクロウリーに、コムイは慌てて口を開いた。
「わわっ!タンマタンマ!」
「黙れッ!わだしを置いでいごうとするおまえ"らが悪いんだよ!コムビタンで死ぬまでわだしと暮らすんだ…ッ!」
慌ててストップを掛けるコムイに、亡霊はリナリーの端整な顔を歪ませると、忽ち負の感情を露わにした。
誰一人逃すものか。
自分を死へと追いやった黒の教団関係者は、一人残らず道連れにするのだ。
ずっと死の淵を彷徨い、この場に貼り付けられた呪いのように離れられずにいる自分と共に。
ゾンビと化して永遠に彷徨い続ければいい。
これは復讐だ。
「ケッ、ケイト・ブロリー!」
顔を床に強く押し付けられながらも、咄嗟にコムイが張り上げた言葉。
それは亡霊も知らない誰かの名だった。
「ファニー・ルルー、オリヴエ・ヴィランク、オットマール・ダッハ、セレスティン・ドゥクレ、エルンスト・コーネン、デルフィーヌ・ポゥ厶、シン・ポール、リーゼ・ローレンツ、アメデオ・キア」
「───!?」
それは一人だけではなかった。
次々と挙げられていく、亡霊の知らない人々の名。
一体誰の名なのか。
「アドルフ・エンデ、エステール・イメルダ、ゾエ・シンシア、ゼフィール・プチ、シメオン・ド・ヴィルパン、マリエ・ルイース、ジャイヤ・ニコラ、アヴァ・ブラウン」
「……?」
否。
その名にはどこか聞き覚えがあった。