第81章 そして誰もいなくなった
「ひ、酷いよリーバーくん…何その仕打ち!?そこまで酷い上司やってた覚えないけど!?」
そんなコムイの嘆きも、ゾンビに埋もれたリーバーには届いていないだろう。
それでもコムイは嘆かずにはいられなかった。
何故こんなゾンビだらけの場に、一人取り残されなければならないのか。
「───っ」
嘆き愚痴るコムイの背筋を、突如ぞくりと走る冷たい悪寒。
戦闘員ではないコムイにもわかる程の強い殺気。
「ガァアアッ!」
「ッ!」
完全に振り返る前に、コムイの背後から黒い影が飛び掛ってきた。
新たなゾンビだろうか。
ロープで縛られた体では逃げることもできずに、コムイは反射で強く目を瞑る他なかった。
『ヤメロォオオオ!!!』
そこへ響いたのは、一つの罵声。
『ゴ主人ハ守ルノヨーーーーッ!!!』
否、高らかな宣言。
ドコンッ!と強い勢いで影へとぶつかった真っ白な光沢ボディが、コムイから脅威の牙を遠ざける。
光沢感ある硬いボディ。
カタコトな言葉。
癖のある巻き毛に細長い眼鏡を掛けた顔。
その姿に一番身に覚えがあるのは、コムイに他ならなかった。
「コ…ッコムリンEXぅううう!!!」
何故ならそのロボットを作った張本人なのだから。
『ゴ主人!感染源コイツヨ!』
「何っ!?感染源!?」
ボカスカと漫画のような塵の煙を上げ暴れながら、頭の外れたコムリンEXが必死で押さえている謎の影。
そこへコムイが目を凝らせば、すぐに誰か判別はついた。
特徴的な白と黒のコントラストが強い髪色。
ゾンビとは少し違う、長く鋭い大きな牙。
生気の見えない蒼白くひょろりとした体。
「ク…クロウリーじゃないか!?」
そう。
貴重な寄生型エクソシストであり、ノアであるジャスデビとの戦闘の末に昏睡状態に陥っていた吸血鬼。
アレイスター・クロウリーである。
「目が覚めたか…よかった…」
彼が感染源である以前に、昏睡状態からの回復にほっと安堵の息をつくコムイは、やはり室長としての器を持つ人間と言えようか。
しかしそんな優しさは、今のクロウリーには通用しない。