第81章 そして誰もいなくなった

見間違えるはずもない。
力なく目を瞑り倒れ込んだまま動かないのは、部下であり特別な想いを抱いている女性。



「おい南…っ！まさかお前まで───」

「「「ガァアアア！」」」



やられてしまったのか。
顔を青くしてリーバーが皆まで言葉にする前に、ロープで縛られ無抵抗な彼らをゾンビと化したアレン達が襲い掛かる。



「くっ…！」

「わっ！？」



ぐっと歯を食い縛る。
歯痒い表情を一瞬だけ南に向けたリーバーは、咄嗟にコムイに体当たりを行い、群を成して襲い掛かってくるゾンビから救った。



「うわぁあ！？」

「ぐ…っ！」

「リーバーくん！？何を…ッ！」



雪崩のようにロブとリーバーの体に圧し掛かる、幾人ものゾンビ達。
忽ち顔だけ残して体をゾンビで埋もれさせてしまった二人に、やっと目の前の現状に目を向けたコムイが驚き声を上げた。



「む…無念です、室長」

「えっ？」

「お化けはともかく…コムビタンDの責任の半分は俺にあります…っ」



がぶり、がぶり。
容赦ないアレンやジョニー達の牙が、苦しそうに言葉を紡ぐリーバーの肩や腕に食らい付く。



「俺が甘かった…っもっとあんたに厳しくしてれば！仕事サボって阿呆なもん作るのをもっと阻止できてれば…っ！」

「え…ち、ちょっと待ってよリーバーく」

「そんな！班長はよくやってました！自分を責めないで下さいッ！」

「あ…いや、ね。ロブくんも何言」

「いや！室長をまだまだ甘やかし過ぎでした！それが無念でなりませんッ！！」

「ねぇ聞いてる？聞こえてるよね？僕無視して茶番しな」

「次からはもっとビシビシとぉおおおッ！！！」

「班長ぉぉおおおおお！！！」

「わーん！！リーバーくん達だって変な薬いっぱい作ってたじゃないさー！！文句聞かせたくてわざと突き飛ばすなんてやめてよね！？！！」



涙ながらに声を張り上げるリーバーとロブの姿が、ゾンビの群に埋もれて消えてゆく。
その様を見せ付けられ、一番心の弱い所を突き刺されているのはコムイだろう。
つまりはお前が悪いのだ、と。
体を張って罵るリーバーに、コムイは堪らず悲鳴を上げた。

罵られながら一人ゾンビの中に取り残されるなど。
ゲームオーバー以上の罰ゲームでしかない。