第81章 そして誰もいなくなった
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ずるずる、ずるずる。
布を引き摺る音が響く。
「ヒッヒッひっヒッ」
濁った嗤い声と共に。
「着いだ」
「イテッ!」
「…此処…食堂、か…?」
か弱い少女の腕だけで、大の大人三人を引き摺り続けたリナリー。
否、リナリーの体を乗っ取った使徒適性実験の亡霊。
乱暴に放り出され、縄に縛られた姿で頭を打ったリーバーは、辺りを見てすぐにそこがどこか理解した。
停電したままの教団内は暗い内装に合わせて薄暗く視界も悪いが、長年住み込みで働いてきた職場。
場所の把握くらいなら訳はない。
「ヒヒひヒ」
「うわーん!リナリーの姿で下品な笑い方をするなぁあ!!」
「ごれで皆ずっど一緒だ」
ロブの隣で滝のように涙を流しながら叫ぶコムイは、亡霊に乗っ取られたリナリーしか見ていない。
「リナリーを返せぇええっ!!」
「そっそれより室長!周りを見て下さい!」
「それよりじゃないよリーバーくん!僕には一番許せないことだから!譲れないから!リナリィイイイ!!!」
「は、班長…っあれって…!」
これではコムイは使い物にならない。
リーバーと同じく辺りを見渡したロブが、サァッと顔を青くする。
薄暗く広い食堂内。
元帥かエクソシストか、力のある者が暴れたのか破壊跡の形跡が残る箇所が幾つも。
そして割れた床の上を、徘徊するゾンビのように歩いているのは教団の団員達。
「お前ら…っ」
「ジョニー!アレン!ラビ!神田まで…っ」
その中で、元帥達に襲われた際に離れ離れとなったエクソシスト達をリーバーとロブは見つけてしまった。
「皆…感染しちまったのかよ…」
絶望に声が萎む。
リーバーの予想が正しければ、もうこの場で無事なのは科学班の三人。
リーバーとロブ、そして号泣するコムイしかいないことになる。
「…南?」
そこではっと、彼女の姿が見当たらないことにリーバーは気付いた。
「南は何処に───」
「班長!あそこ見て下さい!」
「!」
縄で縛られて両腕を動かせないロブが、視線で一点を示す。
目で追ったリーバーは、壊れた机や椅子の間に倒れこんでいる白衣姿を見つけた。
「南…ッ!」