第81章 そして誰もいなくなった
深々と食い込むブックマンの歯に、ラビの顔が苦痛に歪む。
「南っ!ラビ!皆…!」
泣き出しそうな声は、ソカロの攻撃を受けてボロボロなアレンを抱えたジョニーから。
南の視界の隅に、ティエドールに噛み付かれている神田の姿も見えた。
絶体絶命。
その言葉がリアルに浮き彫りとなる。
「コッコムリン!助け───ってお前…!」
『ピーーーーー』
藁にも縋る勢いでジョニーがコムリンに助けを求めれば、頭の外れた姿のまま変な機械音を出し続け一切動こうとしない。
ロボットの癖に死んだフリの真似事など。
頭の回る機械のあざとい行動に、ジョニーは涙ながらに悪態をついた。
「がっ…!」
「! アレンッ!」
その隙を突いたソカロが、勢いよくアレンの腕に噛み付く。
イノセンスではない、生身の人としての右腕に。
「アレン…ッアレン!」
「ぅ…今度こそ、駄目みたいだ…ジョニ…南さ…守れなくて、ごめ…ん」
「っ何言ってんだよぅ…!オレだって科学班の一員なのに!アレン達を守れなかった…!班長や南はあんなに体を張ってたのに…!」
アレンの顔に、ピキピキと血管が浮いていく。
見間違いようのないゾンビ化現象。
それでもジョニーは倒れたアレンを抱きしめたまま、逃げることなくぼろぼろと涙を零し続けた。
懺悔しているのは、今この事態のことではない。
あの悲しき本部襲撃事件でのこと。
「…頑張ろうって思ったんだ…」
同じ科学班であるリーバーや南やロブ達は、あの場でできることを必死にやっていた。
体を張ってAKUMAに抗い、命ある者を助けようとしていた。
しかし自分はなんだ、と。
タップを助けたいが為によくも考えず単独行動を起こし、結果新たな犠牲を生んでしまった。
ジョニー本人も足手纏いにしかならなかったと、あの時のことを思えば後悔ばかりが募る。
周りは誰もジョニーをそのことで責めはしない。
だから尚の事、自分で自分を責め立ててしまうのだ。
「タップの分も皆を助けようって…っ」
それはジョニーの強い決意だった。