第81章 そして誰もいなくなった
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「くっくっくっくっ」
腰布一枚だけという間抜けな恰好にも関わらず、巨大な両刃付きイノセンスを片手に嘲笑うソカロ。
「く…」
「アレンッ!」
「う…」
「く…そ…」
「ラビ!神田…っしっかり…!」
食堂の大広間。
その真ん中で、追われた大量のゾンビ化人間に囲まれている南達。
やはり元帥程の実力者からは、そう簡単に逃げ遂すことなどできなかった。
渾身のソカロの一撃を喰らう直後、アレンの覆ったイノセンスのマントで南とジョニーは被害を真逃れた。
しかしアレン、ラビ、神田のエクソシスト勢は痛手を負い倒れている始末。
まるで月のクレーターのような、衝撃で抉れた床の深みに座り込んだまま。
咄嗟に動けないでいるラビと神田に、ぬっと魔の手が伸びた。
「さぁユーくん、逝こう」
「ッ…くっそおおお!」
「シャアァアアッ!」
「ヤダ来んなッ!やめろパンダ!」
にんまりと笑顔を称えて小さな神田の体を抱きしめるティエドールと、鋭い牙を剥き出しにしてラビの小さな体に伸し掛かる獣耳のブックマン。
「さぁて、どいつから逝こうか」
「あわわわ…!」
アレンの元にもまた、ぬっとソカロの巨大な影が覆い被さる。
咄嗟にアレンの体を抱きしめるジョニーは恐怖でガタガタと体を震わせた。
絶体絶命とは、正にこのこと。
「ま、待って…!やめて!」
どう足掻いても敵いはしないだろうが、ただ黙って見ている訳にもいかない。
咄嗟にラビと神田へと手を伸ばす南の肩に、とんと細長い指が触れた。
「え?」
振り返る前に、ふぅと首筋に微かな吐息。
近付く気配など感じ得なかった。
僅かに顔を横に向け、端へと動いた南の黒眼が捉えたもの。
「今度は柔らかそうな兎だな」
柔らかな金色の髪と、艶やかな唇。
耳元で囁く声は、女性のものではあるがどこか堅い物言いをしている。
睫毛の長い切れ目の瞳。
美しい顔を覆う程の痛々しい火傷の跡。
「クラウド元す───」
クラウド・ナイン。
強く美しい女性元帥である彼女の名を呼び終える前に、ふっくらとした唇は口付けるかのように。
南の首筋に触れた。