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科学班の恋【D.Gray-man】

第81章 そして誰もいなくなった



「犠牲じゃない。一緒に生きる為に、助け合ってるんだ。僕らは」



弾けるように顔を上げる。
驚いたリナリーの目に映ったのは、しかと顔を上げて少女を見つめているコムイの後ろ姿だった。
凛と背筋を伸ばし佇む姿は、教団の室長としての見慣れた彼の姿と重なる。



「…だよね?」



しかし前だけを見続ける、室長としてのコムイだけではなかった。
振り返り、へらりと緩んだ顔で笑いかけてくる。
その姿は、室長であるコムイより更に昔。
エクソシストではない、ただの小さな少女であったリナリーが昔からよく知っている姿だった。

料理が下手で、妹思いで、優しくて、甘くて、広い腕でよく抱きしめてくれた。
二人だけで生きていた、ただ一人の"兄"であったコムイと。



「…っ」



コムイの言葉が、笑顔が、心が、じんわりとリナリーの心に浸みこむと同時に、目元が滲んで潤む。
無言でもその反応だけで充分だった。
リナリーの涙を見たコムイの目元が優しく細まり、口元に弧を描く。



「やっと言えた」



ほっと安堵するように呟く。

教団の本部襲撃事件以来、リナリーとの間には微かな溝ができていた。
身を削ってまで命を晒してまで、誰よりもコムイを守ろうとしていたリナリー。
その妹の姿から目を背け、無事でいてくれと我儘を押し付けて重い扉の向こう側に閉じ込めた。

大切なものはいつも傍にあった。
エクソシストだと判明し教団に連れ去られても、自らその地へ赴いてリナリーの傍に居続けた。

なのにあの時初めて感じた、心の距離。

突き放してしまったのはコムイ自身。
エクソシストとして戦おうとしていたリナリーを否定して、兄としての我儘を通した。
それでも自らイノセンスを体内に取り込み、リナリーは進化を遂げて敵を倒した。
本来ならば賞賛しなければならないことなのに、結晶型となったリナリーは寄生型のエクソシスト同様、短命になってしまったのかもしれない。
そうでなくても体に負担を掛けたことは事実。

喜ばしいことなのに喜べない。
リナリーがエクソシストとして成長すればする程、聖戦に身を染めていくこととなる。

兄としての心が葛藤し、新たな力を携えたリナリーにどう向き合うべきか。
簡単に見ることができずにいたものと、やっと向き合うことができた。

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