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科学班の恋【D.Gray-man】

第81章 そして誰もいなくなった



イノセンスの適合者でなければ。
兄と幼き日に引き離されることも、痛々しいエクソシストとしての修行の日々もなかった。
一人、世界の為にと戦争に狩り出される妹の為に、兄が身を挺して黒の教団という鎖に繋がれることもなかった。

教団の室長となってしまったコムイは、もう妹だけを見続け守ることはできない。
教団で働いている団員達全員の命と、彼らの人生を背負ってしまったのだから。
そしてコムイはそれを義務ではなく、使命として全うしようとすることができる男だ。

自分が、エクソシストであったが為に。
血の繋がった唯一の家族を、同じ末路へと巻き込んでしまった。
だからこそ、誰よりもなによりも妹であるリナリーが守りたいと思っているのは、迷いなく兄であるコムイなのだ。

しかしそのことを突き付けられれば、言葉は詰まってしまう。
兄の為に生きようと思っている。
しかし色々なものを背負わせてしまった罪悪感は消えはしない。



「………」



少女の妬みに、初めてコムイは口を噤んだ。
俯き言葉を失った兄は、何を思っているのか。
彼の広い背中しか見ることのできないリナリーは、声を掛けることができなかった。

例え布で口を縛られていなくても、言葉は出なかっただろう。

つられて俯くリナリーの視界は、冷たい倉庫の床だけを映し出す。
コムイに少しでもこの道を選んだことを、後悔させてしまっていたら。






「…もうそういうの、やめよう」






大切な兄を傷付けてしまっていたら。
一人恐怖で身を竦ませるリナリーの耳に届いたのは、落ち着いたコムイの声だった。

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