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科学班の恋【D.Gray-man】

第81章 そして誰もいなくなった



「引っ越しを中止?なんだって急に…」

「断っだらこの人、殺ず」

「い"…ッ」



ぐぐ、とリーバーの首筋に突き立てられたナイフが皮膚に食い込む。
鋭い刃物は簡単に皮膚を裂いて、真っ赤な鮮血を一筋、二筋と首筋から垂らした。
まるで自殺行為のようにも見えるが、明らかに不穏な行動。
謎の少女に操られ、脅迫の材料にされている。

そんな部下の姿を目の当たりにしたコムイは、驚きに満ちた表情を浮かべた。



「そんな…」



そして。



「それは僕より上の人間に言ってもらいませんと」

「……ああ"?」

「ギャー!」



いけしゃあしゃあと真顔で応えるコムイに、ざくりと深めにナイフがリーバーの皮膚を裂いたのだった。



「ちょっと…!待て待て!何言ってんすか室長!」

「や、だからね、無理だってば。わっかんないかな~」



青い顔を一層血の気の退いた真っ青なものに変えて、リーバーが慌てふためく。
しかし縄に縛られ不可解な少女を前にしても、コムイはなんのその。
飄々とした態度で、呆れたように首を振った。



「引っ越しはね?僕よりずぅーーーっと偉くて権力のある人が決めちゃったことなの。僕みたいな中間管理職じゃなくって、脅すんならトップんとこ行きなさい、トップんとこ!」

「……おまえ"…部下の命がかってんのにずごいハッキリ断るな…」

「何言ってるんだ、この眼鏡の奥の涙が見えないのかい」

「もう黙って下さい…俺が泣きそうです…」



涙なんて一滴も見えない顔で踏ん反り返るコムイを、リーバーが力なく止める。
教団の団員達の為ならどこまでも命を張る覚悟を持っているコムイだが、真面目さと不真面目さの落差はいつも激しい。
ここぞという時以外で、彼が真面目な姿を見せたことなど終ぞない。
大きく肩を落として、リーバーこそ涙を称えたくなった。

わかっていたが、これがコムイなのだ。



「…いい"…わがっでた」

「「え?」」



それはリーバーだけでなく、少女も同じであったらしい。



「言ってみだだけだ…」

「何それ?お茶目?」



ガシャン、とリーバーの首に突き立てられていたナイフが床に落ちる。
最初から少女はリーバーを人質に脅すつもりなどなかったのか。
目的が見えず、コムイとリーバーは唖然とした。

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