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科学班の恋【D.Gray-man】

第81章 そして誰もいなくなった



「だ、大丈夫かい?リーバーくん…偶には休暇を取った方が…」

「ちがうわ」



恐る恐るリーバーを気遣う、コムイにしては珍しい姿。
しかしその声を遮るリーバーの声は冷たく、はっきりとコムイの気遣いを否定した。

否。



「じつちょう」

「…リーバー…くん…?」



リーバーから漏れる声は、しゃがれて低い。
喉を潰したような濁った声だった。
成人男性のものではない、少女のような儚さを残して。



「今がらわだしの言うごとだけに答えで」



掠れてしゃがれた声は、リーバーの口からは発せられていなかった。
声の大元は彼の腹部から。
くたびれて煤汚れた白衣の下。
そこから覗いていたのは、見慣れたリーバーのシャツとベストではない。



「言うこと聞がなかったら、この人の喉元掻っ切るがら」



そこに存在していたのは、ぼこぼこと爛れた皮膚を持つ少女の顔だった。



「ひヒヒ」



長くウェーブのかかった髪に、目元は隠れていて見えない。
ぼさぼさの髪の隙間から見える爛れた口元が、歪んでぐぷりと音を立てる。

その異様な光景は、現実離れしていて夢かとさえ思う程。
しかしコムイに夢を見させなかったのは、体をきつく縛る縄の痛さだった。



「な…!」



目の前の異常な現象に、コムイの顔が驚愕へと染まる。
それを見た少女の口元が、にんまりとつり上がった。



「おばえにお願いがあ"るの…じつちょう」

「………」

「今、ごこで行ってる引っ越しのごとで───」

「………」

「───…おい"?」

「………」

「ぢょっと。聞いでる?」

「………」

「…おい"ってば」

「………」

「聞げ」

「おぶゥ!」



しかしいつまでも驚愕の顔で固まっているコムイに、痺れを切らしたのか。
リーバーの拳が遠慮なくコムイの顔へとめり込んだ。
普段よく上司であるコムイにも遠慮なく手を出しているリーバーだが、今回は彼ではなく彼の体を乗っ取った謎の少女が殴り飛ばしたらしい。

驚きの余りに硬直して、すっかり話が右から左に素通りとなっていたコムイに。

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