第81章 そして誰もいなくなった
✣ ✣ ✣ ✣
───ヒヒ…ヒひヒ…
深い深い意識の闇の中。
コムイの耳に微かに届いたのは、人の笑い声のようなものだった。
「…ぅ…」
ゆっくりと目を開く。
眉を寄せ顔を顰めながら、覚醒したコムイの眼下に広がっていたもの。
それは冷たい床板だった。
(此処、は…?)
気を失う最後に見たのは、襲い来るゾンビ化した元帥達のはず。
しかし目の前の床板は彼らの攻撃で抉れてなどいないし、激しい破壊音なども聞こえない。
静かで暗い空間だった。
(確か、コムリンEXが放ったミサイルで気絶しちゃって───)
記憶を辿るように起き抜けの思考を巡らす。
頭を押さえて身を起こそうとすれば、ぴくりとも体は動かなかった。
「え?」
それは負傷した為に、体を上手く動かせないからではない。
身を起こそうとした腕も足も、何故か上手く動かない。
「な!?なんだこれ…ッ」
何故なら見下ろした体は、隙間なくしっかりと巻かれた縄で縛られていたからだ。
「いだだだだッ!?」
一体誰に縛られたというのか。
疑問を抱く前に、コムイの体がギリギリと縄で締め付けられる。
「んーっ!」
「んんーッ!」
「っ!?リナリー!ロブくんまで!?」
一体何が起きているというのか。
軽くパニックに陥りそうになったコムイの思考を止めたのは、くぐもった悲鳴。
辿るように目を向ければ、暗い倉庫の一室か。
その壁際に座らされている影が二つ。
体を雁字搦めに縄で縛られ、布で猿轡をされたリナリーとロブだった。
「縄で縛るなんて!今度はリナリーで一体なんのプレイを…ッ!」
「んんっ!んんんーッ!」
しかし流石安定のコムイと言うべきか。
相変わらずのシスコンっぷりを発揮する兄に、猿轡の中からリナリーが必死の抗議を上げた。
今はそんな阿呆なことを言ってる場合ではない。
「す、みませ…俺がやったん…です…」
そこへ、くぐもった悲鳴ではないはっきりとした言葉がコムイの耳に届いた。
知った声。
誰よりもよく身近で聞いてきた、馴染みのある声だ。
「リーバーくん…!?」
それはコムイの背後できつく縄を締め上げる、リーバーのものだった。