第81章 そして誰もいなくなった
「待つ、さ…クロちゃん…ッ」
床の上で這い擦り上げるラビの制止も、クロウリーには届いていない。
簡単に倉庫の壁際へと、南とジョニーを追い詰めてしまった。
「ガァアッ!」
「っ!」
「南…ッ」
普段以上に鋭い牙を剥いて拳を唸らせるクロウリーに、堪らず二人が硬く目を瞑った時。
ゴッ…!
鈍い衝撃音が鳴り響く。
「二人に手を出すなら、クロウリーでも容赦しませんよ」
優しくも強い声。
聞き覚えのある声に、硬く瞑っていた目を二人が開ける。
南とジョニーの視界に映ったのは、真っ白に輝き翻るマント。
己のイノセンスを発動させた姿で、二人を守るように立っていたアレンだった。
鈍い衝撃音は、アレンの発動した退魔の剣でクロウリーの拳を受けた音らしい。
「…なんだか懐かしいね、クロウリー」
「グル…!?」
「僕ら初めて会った時もこうして…戦った!」
ふ、と笑みを浮かべて。
優しい声とは裏腹に、強烈な拳をクロウリーの腹部へとアレンが叩き込む。
お互いの出会いを思い出すかのように。
アレンとクロウリー。
この二人の初めての出会いの場は、クロウリーの今は無き家である、大きく廃れた古城のような屋敷だった。
そこで人の皮を被ったAKUMAの血を、手当たり次第襲い吸っていたクロウリーは、町人から吸血鬼と恐れられていた。
やがて我慢に耐え兼ねた町人達が吸血鬼退治を依頼した人物こそ、エクソシストであるアレンとラビだったのだ。
初めて出会った時も、武器を携え拳を交え、命をも賭けて戦った。
それを乗り越えたからこそ、強い絆が彼らにはある。
それは決してゾンビウイルスで消えたりはしないはず。