第81章 そして誰もいなくなった
「まだ起きねぇんさ?おーいアレン、大丈夫かー」
アレンの顔を覗き込みながら、ぺちぺちとラビの小さな手が頬を叩く。
今此処で即戦力になるのはアレンだけだ。
その彼が気絶したままでは、状況は好転しない。
「どこか怪我してるのかも…私が診るよ。退いてラビ」
「あれくらいの襲撃で深手なんか負うかよ」
「神田達は色々過信し過ぎなの。エクソシストでも人間なんだから。もっと体大事にしてよね」
傍に膝をついて、南の手がアレンの蝶ネクタイをするりと解く。
「南って医療知識あったんさ?」
「まさか、専門外。だからって無視はできないでしょ」
「そうだけどさ…」
「ラビは倉庫で使えそうな道具ないか見てきてくれる?綺麗な布か何か…神田はドアを見張ってて」
「いえっさー」
「チッ仕方ねぇな」
「南、オレにもできることあるなら手伝うよ」
「ジョニーは…そうだね。あの人、慰めて復活させておいてくれる?」
「…あれ?」
「うん」
「……人?」
「じゃないけど。でもあのままじゃ足手纏いにしかならないし…」
「…確かに」
『ゴ主人…ゴ主人…』
ぼたぼたとオイルを床に零し続けているコムリンEXを見て、南とジョニーの肩が同時に下がる。
人ではないが、ああも感情を露わにしている様を見れば放ってはおけない。
このまま嘆きが大きくなれば、外の誰かに気付かれてしまう恐れもある。
「…ぅ…」
「! アレン?」
その時、ネクタイを解きシャツのボタンを外していたアレンの体が、微かに動いた。
顔を見れば、髪と同様に真っ白な眉は、窮屈そうに眉間に寄っている。
「どうしたの、どこか痛むっ?」
「ぅ…ぁ…」
魘されているのだろうか、口から漏れる言葉は形を成していない。
体の痛みの悲鳴か、悪い夢でも見ているのか。
咄嗟に顔を近付け呼びかける南。
ぱくぱくと微かに動いたアレンの口から漏れたものを、南の獣耳は確かに拾い上げた。
「…ク…ロ、リ…」
「…え?」
それは人の名だった。
(クロウリー?)
確かに、そう。
エクソシスト仲間である彼の名を聞いたのだ。