Let's play our music!【うた☆プリ】
第10章 彼のための曲
「どうしてここに…?」
「少し考え事をしたくて。まさか、先客がいるとは思いませんでしたが」
隣に座ってもいいですか。
それは、考え事の時は1人でいたいような一ノ瀬さんというイメージを持っていた私にとって驚きの質問だった。
拒否する理由もないので頷くと、彼はゆっくりと腰を下ろす。
「っ、…!」
その一瞬、顔を歪めた。
どこか痛めているのだろうか。
そう思ったが、必死に隠している一ノ瀬さんを見るとそれを聞くのは憚られ、黙っていることにする。
「今のは、課題の曲ですか」
「え?あぁ…そうだよ、試作段階だけど」
「そうですか…あなたの曲、変わりましたね」
「……そう?」
「ええ。技術が前より格段に落ちています…今まであったキレや存在感は皆無ですね」
手厳しい批評だ。ぐさっとくる彼の言葉に項垂れる。
一ノ瀬さんはそんな私を全く見なかったものの、硬かったその表情を少し柔らかくして続けた。
「でも、なぜでしょうね。先程のあなたの曲の方が好きです。今までにないあなたらしさがありました」
「翔の歌なのに?」
「ええ。彼をイメージした曲だということは誰が聞いても分かると思います。けれど、それであなたという存在が音や曲から消えるわけではないのですよ」
「……」
「拙くても、その音の端々にはあなたの気遣いがある。それはアイドルとして活動してきたさんだからこそ出来たものです。それは…あなたの強みでありあなたらしさということにはなりませんか?」
一ノ瀬さんが笑顔を向ける。
彼の笑顔なんて初めて見たけれど、とても優しい。
自分にも他人にも厳しい彼が、初めて私を認めてくれた瞬間だった。
「…ありがとう、一ノ瀬さん」
「本当のことですよ。では、これで」
去っていく一ノ瀬さんの背中を見つめながら、ふと思う。
もしかして彼は私を励ますためにわざわざ来てくれたのかな、と。
「よし、頑張ろう」
汚点のように思われていた私の経歴が役に立っている。
そう思えることは私にとって大きな進歩だった。
これが私なら、それを活かせ。
アイドルやってたことも、麗奈に憧れていたのも、全部ひっくるめて、私なのだから。