Let's play our music!【うた☆プリ】
第10章 彼のための曲
翔と別れて自室に戻るまでの道すがら、このまま帰るのもなんだかなと寄り道をしてみることにした。
ここ、早乙女学園の敷地は広大だ。
おそらくここの全てを知るには1年では足りない程に。
そういえばこちら側はあまり散策したことがなかったなぁ。
そうしてあてもなく歩いていると、湖に出た。
月の光に照らされた水面は幻想的にきらめいている。
どことなく別世界を思わせるその風景に、思わず息を飲んでいた。
「こんなとこがあったなんて…」
知らなかった。
静かで、美しくて、どこか心が洗われるような場所。
それがこの学園内にあったとは。
何となく側により、辺に座る。
ぼんやりと湖を眺めながら、気付けばメロディーを口ずさんでいた。
「〜〜♪」
それは、翔のための曲として考えていたもの。
彼の良さを前面に出せて、尚且つ別の一面も見出せるような…
そんなものが作りたい。
"!"
翔の笑顔が脳裏に浮かぶ。
見る人に勇気を与え、壁のある人さえも心を許してしまう屈託のない笑顔。
そんな彼が私の曲をステージで歌う姿を、思い描いた。
「ふふっ…」
飛んだり、跳ねたり。
広いステージを駆け回り、見る人皆に応えようとする彼。
………そうだ、これなら。
「っ、……誰?」
良いメロディーが舞い降りようとしてきたその時、背後で木の枝が踏まれる音がした。
誰かがいるなんて思いもしなかった私は、肩を震わせると振り向く。
「すみません、驚かせるつもりではなかったのですが…」
「一ノ瀬さん…」
そこにいたのは、一ノ瀬さんだった。
彼とまともに言葉をかわすのは久しぶりな気がする。
一ノ瀬さんは周囲と積極的に言葉をかわすタイプではなかったし、授業でもあまり絡むことはなかった。
それでも、私がここにくるきっかけをくれた人だったから、何となく視界の端に彼を捉えていた。