Let's play our music!【うた☆プリ】
第10章 彼のための曲
「翔!」
「お、、元気そうじゃん!良かったな!」
「ありがとう、心配させてごめん…さ、やろ!」
学園へと帰ってきたその足で食堂へと向かうと、既に来て席を取っておいてくれた翔が私を手招いた。
他愛ない話をしながら夕食を受け取って席で一息つく。
とりあえず私の翔のことを知りたいという要望により、作曲の話というより彼自身の話を中心に話した。
彼の弟の話や、ケンカの王子様の話、そしてそれにまつわる学園での思い出。
「あははは!!!え、翔女装したの?!」
「するか馬鹿!!いやーほんとあの時は参ったぜ…」
「でも楽しそうだね、その場に居たかったな」
「あー…お前確か伊集院とどっか行ってたんだよな」
翔がケンカの王子様のキャストオーディションのため、高所恐怖症を克服しようとしていたらしいその日、私は華の買い物に付き合っていた。
何でも今度のホームパーティーでダンスを披露するらしいのでその衣装選びに誘われたのだ。
神宮寺さんも来るらしいので彼女はやたら張り切っていて、真剣に吟味していたのを覚えている。
しかし、キャストオーディションで募集していたのは主役の妹だったという落ちは予想外すぎて思い切り笑ってしまった。
翔は不満そうに口を尖らせていたけど、やはりケンカの王子様、更には日向先生が好きなのだろう。
その作品について語る彼の瞳はきらきらと輝いていた。
「翔はやっぱりヒーローみたいなのが好き?」
「ヒーローは男の憧れだろ!一度はやってみたいよな〜」
それなりの付き合いを翔とはしてきたと思っていたけど、まだまだ彼の知らない一面があった。
明るくて、優しくて、人のことをよく見ている気遣いが出来る人。
そして、自分に足りないものを人一倍を努力して埋めていく熱い人。
この人を最大限輝かせる歌を。
「翔、私…やれる気がする!」
「そっか!楽しみにしてるぜ!」
翔が向けてくれた力強い拳に、こつんと自分のそれをぶつけた。
「ところで翔、今回のテーマって"別れ"じゃない?」
「おう、そうだな」
「自分の性別に"別れ"を告げる気は…」
「女装はしねぇからな!!?」
おふざけの提案はもちろん、却下されてしまった。