Let's play our music!【うた☆プリ】
第9章 素顔と音楽と
サックスの音色が空気に溶けていく。
心地良い静寂が辺りを包んだとき、思わず手を叩いていた。
「ありがとう、レディ」
「すごかった…神宮寺さんの歌だった」
こだわりすぎかもしれないが、今の私にとっては他の誰にも歌えない"彼の"歌というのは大きな注目点だった。
彼だからこそ歌える歌。
それは、作曲家として歌い手の力を引き出していると言えないだろうか。
それは、作曲家として凄いことなのだ。
同時に、私に足りないものでもある。
今まで作ってきたのは、本当にその人のために作ったものだったのか。
「…反省しきりだなぁ」
春歌に、歌い手のことを考えれば自然に曲が湧くよとか言っておきながら恥ずかしい。
麗奈のことを知っているつもりで、本当は何も知らなかったみたいだ。
「?レディ、何か言ったかい?」
「ううん、何も。歌を聴かせてくれてありがとう、神宮寺さん。おかげで私も何か掴めそうな気がする」
「そうかい、それは良かった」
早乙女学園にきて数ヶ月。
私は、ここにきてやっと作曲家に近づいた気がする。
麗奈の凄さを、実感した。
「?あ、ごめん私だ」
その時、携帯が鳴る。
着信のようで、相手を見るとそれは翔だった。
「翔?どうしたの?」
『あ!大丈夫か?熱とか出てないか?』
「うん、大丈夫。もうそろそろ帰るよ…あ、そうだ翔、帰ったら時間ある?」
『おう、大丈夫だぜ!どした?』
「作曲手伝ってほしいんだ。曲作るために、翔のことたくさん知りたくて」
『なんかさらっと照れること言われた気がするけど…勿論良いぜ!じゃあ食堂で待ってるから夕飯食いながら話そう』
「了解、ありがとう」
通話を切った後も、私の心は作曲へのやる気に満ちていた。
翔のための、翔にしか歌えない歌を、私が作る。
「神宮寺さん、そろそろ帰ろ…神宮寺さん?」
そんな風に心がどこかへ行っていたからか、私は気付いていなかった。
通話の段階から、神宮寺さんの表情が陰っていたことに。
その瞳が、やけに切なく揺れていたことに。