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Let's play our music!【うた☆プリ】

第6章 それは春のように



その夜、2人が帰っていった室内を眺める。
何を見ても、頭の中ではさっき春歌に言われたことが離れなかった。

「音楽が好き、かぁ…」

昨日音楽をどうでもいいと言っていた彼がそう言ってくれたことが、とても嬉しかった。
同じ道を再び志そうとしてくれたことが、私を歓喜させた。

その理由は、なぜだかわからない。
否、わかりかけているものの、私はそれから目を背けていた。

向き合ったら、何かが壊れる。
そんな気がして。

「神宮寺さん…」

彼の名を呼ぶと高鳴る鼓動。
胸に手を置いてそれを鎮めようと深呼吸した時、窓にコツコツと何かが当たっている音が耳に入った。

「……?」

カーテンを開けると、途端に目に入ったのは暗闇に似つかわしくないオレンジ。

「こんばんは、レディ」
「じ、神宮寺さん?!」

数秒前に名を呟いた、その人がいた。

「な、なんでここに…?というかここ3階っ」

神宮寺さんは木の枝に座り込んでいて、手には小さな石ころが握られていた。
私が慌てて窓を開けると、彼は軽やかに跳躍し、室内に入る。

「珍しいね、君が慌てるところを初めて見たよ」
「じゃなくて、何でここに…っ」
「もちろん、レディに用があったからさ」

混乱気味の私とは裏腹に落ち着いた彼は、私に座るよう促すと自分は壁に寄りかかった。

こんな夜、しかも女子寮に何の用だろう。
それも恋愛禁止令が出てるこの学校においてこういった行為はバレれば退学にされかねない。

私が復帰してからでも良いだろうに。
そんな急用なのだろうか。

そんな私の疑問は彼にも予想済みなのだろう。
どうしても今日、君に直接言いたくてね。そう前置いた神宮寺さんは、ゆっくりと話し始めた。

「退学はしなくて済んだよ」
「うん、春歌たちから聞いたよ…良かったね」
「ありがとう…そうか、なら子羊ちゃんから聞いたかい?」

それが彼の伝言のことだと、言われなくても分かっていた。
こくりと頷いた私を確認すると、神宮寺さんは壁から体を離し、私にまっすぐ向き直る。

「改めて言わせてくれ、ありがとうレディ」
「そんな、私何もしてないし…むしろ叩いてごめんなさい…」
「ははっ、いいんだ。そのおかげで気付けたんだから」

真っ直ぐにこちらを見る彼は晴れ晴れとした表情をしていた。
先日まであったような、どこか投げやりな部分のない、いい笑顔だった。
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