Let's play our music!【うた☆プリ】
第5章 信じてる
走って戻ってきた私の目は赤かっただろうに、翔くんは何も言わないでいてくれた。
「ごめん、翔くん、始めよう!」
そんな優しい彼に、迷惑かけちゃいけない。
この課題に意識を集中させるんだ。
さっきまでのことは全部忘れようと、プリントを広げて鉛筆を手に取る。
「頑張ろうね、翔くん、皆を見返そう!」
「おい」
「テーマに沿った作曲って苦手なんだけどそんなこと言ってられないよね、ここから追い出されないよう頑張らないと」
「おい」
「別れっていうと恋愛?卒業とかもあるよね…翔くんのイメージだと、」
「おい!」
一気にまくしたてる私に彼はストップをかけた。
腕を掴む彼の目は真剣で、力の抜けてしまった私の手から鉛筆が落ちる。
「…翔、くん…」
「落ち着け、」
何があった?と静かに聞いてくる彼の声は真剣でも優しくて。
自然と涙がこぼれてしまった。
「うぉっ?!どした、話してみ?」
「しょ、う…くん…!」
抱えていたものが流れ出ていく。
流れる涙が止まらなくて、顔を覆う私の頭に手を置いた翔くんは泣き止むまで撫でてくれた。
「…お前、溜め込みすぎなんだよ」
「…っ、う…」
「作曲のことも、陰口のことも…もっと俺らに頼っていいんだぜ」
こんなに泣いたのはいつ振りだろう。
それほどまでに号泣した私は暫くしてやっと落ち着くと、彼に促されるまま話し出す。
華に聞いたことや、さっきの神宮寺さんとのこと。
今回の課題が苦手なこと。
これで誤解している生徒たちに自身の力を認めさせるつもりでいたこと。
全てを聞き終えた翔くんは大きなため息を1つ。
そして軽く額をデコピンしてきた。
「いたっ!」
「お前なぁ…そんだけ溜め込みゃストレスになるに決まってるだろ」
「…」
「別に今すぐ実力を認めさせる必要はねぇし、苦手分野なんて誰にでもある!」
全部一気にやろうとしなくていいんだと。
少しずつでいいと翔くんは言ってくれた。
その言葉に、肩にのしかかっていた何かがゆっくりと消えていく。
自分を急き立てていた焦りも。
「課題の提出日までまだあるんだし、ゆっくりいこうぜ!」
「…ありがとう、翔」
「っ…おう」
面倒かけてしまったことに礼を言う。
同時に名を呼び捨ててみたことに彼は一瞬驚いたように目を丸くしたけど、すぐに満面の笑みで頷いてくれた。