Let's play our music!【うた☆プリ】
第4章 それが芸能界
私は足早に教室に戻ると、そのまま女子に囲まれている男子生徒のもとに向かった。
もう1つやりたいことがあるのを思い出して。
「神宮寺さん!」
「おや、レディ。どうしたんだい?」
相手は勿論神宮寺さんで、私に気付いた彼は女子から離れてこちらにやって来る。
「先日のレコーディングテストは、ありがとうございました」
「何だ、そんなこと気にしなくて良いのに」
「いえ…色々、助けられましたから」
曲だけじゃなくて。
暗に伝えたのが彼には分かったようで、ウインクしてくれる。
しかしお礼と思って作ったお菓子はどうしても受け取ってくれなかった。
「な、何でですか!」
「これしきのことでこんなもの受け取るなんて申し訳ないよ」
「私の気が収まりません!」
「…君、案外強情だねぇ」
「華みたいでしょ?」
誇らしげに笑ってみせると、途端に神宮寺さんは弾かれたように笑い出す。
余程予想外の返しだったのだろう、本当だと笑うのを止めない神宮寺さんに、何事かと華や翔くんも近づいてきた。
「どうしたんだ?レンの奴」
「…なんか、止まらなくて」
「こんなに笑うレンくん見るの久しぶり」
涙すら浮かべる彼に、それ程までに自分の姿は滑稽だったのだろうかと不安を感じ始める。
それに気付いたのか神宮寺さんは何とか笑い止むと、じゃあ代わりに1つ良い?と聞いてきた。
「敬語、やめない?あとレンって呼んで」
「1つじゃないじゃないですか」
「ははっ、手厳しいな」
「生まれつきです」
結局敬語を外すということで落ち着いた頃、授業開始を知らせる鐘が鳴る。
席に座ると、月宮先生が入ってきた。
どうやら今回の講師は月宮先生らしい。
「みんな、おはやっぷ〜!」
いつものご挨拶から話は先生の最近の仕事の話へ。
なかなか聞けない貴重な話に皆が目を輝かせている中、私は窓の外に視線を移す。
桜が、満開を過ぎて徐々に散り始めている。
桜は好きだが散るのは嫌いだ。
散って落ちていくのを見ていると、芸能界を連想してしまう。
選ばれず、強制的に光の世界から叩き落とされる無数の敗者。
そしてそれら全てを踏み台に、光の世界で咲き続ける勝者。
自分は勝者になれるのだろうか。
どの生徒も抱えているだろう悩みを頭から追い出し、視線を先生へと戻す。
先生の髪と同じ色の花のことが、暫く頭から離れなかった。