Let's play our music!【うた☆プリ】
第22章 気付けなかったもの
はアイドルだった。
しかし、望んでなったわけじゃなかった。
約束の2年が過ぎることをひたすらに待ち続け、自由になることを望み続けた。
それゆえに、認めてくれている人のことなど、応援してくれる人のことなど、考えたこともなかった。
「ファン…か」
美風さんの部屋を後にして自室に戻ってきても、言われたことはしばらく頭から離れない。
自分にとってファンとは何か。その答えがまだ見つけられずにいた。
今まで考えもしなかった人々。
私の歌を好きだと言い、応援してくれる人たち。
確実に存在していたであろうその人たちのことを、私は全く知らない。
否、知ろうともしていなかった。
だから、今からでも知っていかなければこの先進むことはできない。
視線を入り口に向けると、立てかけてあるいくつかの紙袋が目に入った。
帰り際に麗奈に渡されたその紙袋の中には、アイドル時代に事務所に届いたらしいファンレターが入っている。
まるで私の悩みを知っていたかのようにちょうど渡されたものだが、どうにもまだ開く勇気が出なかった。
そこに何が書いてあるのか、知るのが怖い。
ファンレターに見せかけて、アイドルに向き合えていない自分への罵倒が書かれてるんじゃないか。
私の歌じゃなくて、麗奈の作った曲が好きなだけなんじゃないか。
それだけのはずがないだろうに、1度悪い予想を立ててしまうとそれに引きずられてしまう。
おかげで未だにそれらは読めていない。
でも、向き合わなければ。
「………よし」
紙袋の中から、1番上に置かれていた封筒を手に取る。
女子から送られたものなのだろう、可愛らしい封筒に入った紙には小さく丸まった文字が並んでいた。
内容はきっとファンレターとしてはありがちなもの。
この歌のこんなところが好きとか、いつもこういう時に聞いて元気をもらってるとか。
つい微笑んで読んでしまうその手紙の最後で、ある一文が私の目に入った。
“ちゃんが活動を休止してしまうこと、とても寂しいですが、いつかまた私たちの前で歌ってくれると信じています。だから泣きません。きっとちゃんにも色々あるのだと思うから、急かしたりもしません。ただ、あなたの歌を聞いて待ってます。
あなたの帰りを。”