Let's play our music!【うた☆プリ】
第22章 気付けなかったもの
「随分ため息ついてるみたいだね」
「うわっ?!」
さっきまで天井しか見えていなかった視界が突然変わる。
それも、美風さんのどアップに。
目の前に広がる端正な顔立ちに目を見開いて口をパクパクさせた私から、彼は特に何か反応を示すことなく離れる。
「びっくりした…何かご用ですか?」
「別に」
ですよね。
一時的に共に暮らす先輩方の中でも、美風さんは特に会話をしたことがない。
そんな人が突然私に用を見つけるはずがない。
大方、ぼけてる私に喝を入れに来たのだろう。
「…ただ、君が忘れてるように思えたから」
「忘れてる…?」
しかし彼の言葉はそんな私の予想を超える。
頷き、私を手招いた彼はそのままリビングを出て自室へとやってきた。
何も気にしていないように入るよう促すから、私もドキドキする暇もなくお邪魔する。
言われるがまま、されるがままに美風さんの部屋のテレビの前に座らされると、彼は1枚のDVDを持ってきた。
「これ、知ってる?」
「…HAYATOのライブDVDですよね」
それはHAYATO、本名一ノ瀬トキヤのライブ。
かなり大きな会場を満席にし、彼を一躍人気アイドルへと押し出したきっかけのライブだと言われているものだ。
私の言葉に頷いた美風さんはDVDをデッキに入れ、映像を流し始めた。
「凄い…!!」
それはまさに圧巻。
彼のパフォーマンス、歌、そしてきらめく笑顔。
全てがその雰囲気の中で完成していて、力強く拳を握ってしまうほどに体が熱くなる。
人々を惹きつけてやまない。
見れば見るほど彼の虜になる。
そしてこの熱気。
ライブの醍醐味といえばファンと共有できるその空気にある。
彼らの作り出す空気が熱く、滾るものであればあるほど歌手たちのテンションも上がるというもの。
芸能人なんてファンがいなければ成り立たない。
そしてファンがいなければこの空間は生まれないのだ。