Let's play our music!【うた☆プリ】
第22章 気付けなかったもの
「……はぁ」
この日はあっという間に夜になった。
と、いうのも先輩方の話し合いが白熱して時間が経ったのだ。
「もうこんな時間だし、軽いもんで良いよな」
「そうね…野菜中心にしましょう」
キッチンで話しているのは黒崎さんと麗奈。
どうやら料理がこの2人担当なのは言うまでもないらしく、私はリビングで本を読みながら話し合う2人を見ていた。
正直本の内容は欠片も入ってきていない。
頭の中は2人のことで一杯だった。
朝はあまり感じなかったが、こうしてあの2人を観察していると少し違和感を感じる。
お互い相手と話すときだけ、少し変わるのだ。
それは話し方だったり、表情だったり様々だが。
とはいえ直接聞くわけにもなぁ…
頭の中で1つの仮説は立っているものの、それを確認するのは憚られる。
他の人に聞こうにも、リビングに自分の他は誰もいない。
仕方なく意識を本に戻すも、適当にページをめくっていたせいで内容が何もわからない。
「………」
ぱたり、と本を閉じてソファに寄りかかった。
ぼんやりと天井を見上げていると、今日の出来事が少しずつフラッシュバックする。
まず脳裏に蘇ったのは、先程の麗奈との打ち合わせ。
"次はあなたの番よ、。どんな歌が歌いたい?"
その問いに、すぐには答えられなかった。
私がどんな歌を歌いたいのか、そもそも歌いたいのか。
何のために歌うのかがまだ自分の中で定まっていなくて。
"…わからない"
結局、私たちの話し合いはカルテットナイトのみなさんの白熱したそれとは違う、ずいぶん沈黙が目立つものとなった。
麗奈も特に何か聞くわけでもなく、さらさらとメモに何かを書き綴っていただけ。
まぁゆっくり考えたら、と言い残してリビングを後にした彼女の背を黙ってみることしかできなかった。
「………はぁ」
早乙女社長からの命令だから、歌わないという選択肢はないけれど。
今のこの状態じゃ何も歌える気がしなくて。
口を開いても、漏れ出るのは歌声じゃなくてため息だった。