Let's play our music!【うた☆プリ】
第21章 QUARTET NIGHT
………ちょっと待って。
私は、アイドルから曲のアイデアを貰ったことがあっただろうか。
話し合いはしていても、ある程度のテーマや方向性を決めていただけで彼らの思いを聞いた記憶がない。
そして、彼らに完成した曲の批評を受けたことも。
いくら今までの課題を脳内で思い返してみても、そんな思い出はない。
いつも完成がギリギリだったこともあってゆっくり組んだ相手に聞かせたこともない。
私は1度たりとも早乙女学園のやり方に沿っていないのだ。
その方法が全てだとは思っていない。
きっと他にもやり方はあるだろう、作曲家ごとに違えば星の数ほどそれは存在するのだから。
しかし、まだ慣れぬ素人たちはどんなやり方でも試す。
自身にあったやり方を探すために。
なのに私は、1度も他のやり方を試したことがない。
ずっと1人で作って、1人で確認して、1人で完成させた。
それはパートナーが非協力的だったわけじゃない。
私に協力を仰ぐという選択肢がなかっただけ。
そうか、だから。
だから私は選ばれなかったのだろうか。
神宮寺さんのパートナーに。
共に作り上げた達成感、またこの人と歌を作りたいと思える高揚。
それが私と組んだときは無かったから。
春歌の曲は優しくて、人を包む。
同時に、歌う相手のことを本当によく考えているのだと分かる。
それはたくさん相手のことを考え、相手と関わったから。
どうして気付けなかったんだろう。
春歌に"相手のことを考えたら自然と曲が浮かぶ"なんてアドバイスしておきながら、私自身がその言葉を理解出来ていなかった。
もし分かっていたら、完成まで1度も曲を聞かせないなんて馬鹿な真似はしない。
私はあくまで個人主義を貫いていたのだ。
「…OK、おおまかなメロディーは作れたから、聞いてもらえる?」
麗奈の声に意識が現実に引き戻される。
どうやら議論は終わっていたらしく、アイデアをメモに書き留めていた彼女はパタンとメモを机の上に置いた。
やがてピアノの前に腰掛けた麗奈は、流していた髪を後ろで結ぶ。
演奏する前の彼女のゲン担ぎのようなものだ。
そして鍵盤に手を置いた麗奈が奏で始めた音楽は、
確かに人々を誘惑し、魅了する気品ある歌だった。