Let's play our music!【うた☆プリ】
第16章 膨らむ期待
2人の間を風が吹き抜ける。
夏に入りたてのそれはほんの少し湿気あってべたつく。
突然砂月さんが立ち上がった。
私をじっと見つめているようで、どこか遠くを見ているようなその視線に首をかしげると、彼はゆっくりと手を伸ばす。
「……」
その手がそっと私の首に触れた。
「、砂月さん…?」
擽るようなその手は私の首にはりついていた髪を払った。
走った汗や湿気で何時の間にかついていたらしい。
それをなぜ払ったかはわからないけれど、その後私の首に手を添えて上を向かされる。
「…お前自身はどうでもいい」
「……」
「けど、お前の曲は変わった。それは認める」
「…!!」
「今のお前の曲は、睦月麗奈のものじゃない。のだ」
それは私自身を肯定されるより、嬉しい言葉だった。
「…あ、ありがとう!」
首に置かれていた手が離れて、代わりに頭に重みがかかる。
そのまま無造作にぐしゃりと髪を撫でられると、砂月さんは颯爽と歩いて行ってしまう。
「あぁ、そうだ」
「?」
「那月のことも名前で呼んでやれよ、喜ぶぜ」
「…うん、そうする!ありがとう、砂月!」
風が一際強く吹き、その強さに目を瞑る。
おさまってから再び前を向くと、もうそこに砂月の姿はなかった。
彼と四ノ宮さんの間に何があるかは分からない。
そこにはきっと、簡単には踏み込んじゃいけない何かがあると思うから。
砂月と出会えたことは私の中で大きな意味があった。
それだけで十分だ。
普段会うことのない彼と今日再会出来たのは、もしかしたら運命と呼べる何かがあったのかもしれない。
「…ん?」
しかし何か忘れている気がする。
そう思った瞬間、はっと重大なことを思い出した。
「砂月!!勝手にどっか行かないで!!!」
広々とした公園に私の絶叫がこだました。
その頃の砂月は。
「はっ…誰が言うこと聞くかバーカ」
遠くから聞こえた女の声に届かぬ返事を呟く。
しかし呼び名が変化したことに、普段下がっている口角が上がっていることに気付いた。
「ちっ…俺のことはどうでもいいんだっつーのに…またな、」