Let's play our music!【うた☆プリ】
第15章 あの人の正体
部屋に帰ると、華が大きなトランクを持ち出している。
やけにうきうきとしたその表情に、私は首を傾げずにはいられなかった。
「何やってるの、華」
「え?当たり前じゃない、だって」
「学園やめるの?」
私の言葉に華はぽかんとする。
その表情は私も同じだろう、だってトランクを引っ張り出す必要なんてこの学園ではあまりない。
あるとすれば学園をやめるくらいじゃないか。
そう思っていったのに、途端に華はお腹を抱えて笑い出した。
「え、何で笑うの華?!」
「いやだってそのボケは笑う…あははっ!」
「ボケたつもりもないんだけど…!」
しばらく笑い続ける彼女をジト目で見る。
ようやく笑いを止めた華はごめんごめんと私の肩を叩きながら説明してくれた。
「もうすぐ夏季合宿なんだよ」
「…夏季合宿?」
「そう、南の島でバカンス!…という名の勉強をするんだって。噂じゃその辺で皆お目当ての相手にペアの誘いをするらしいよ」
夏季合宿。
それは随分と魅力的な響きだが、成る程そこで各々の力を見極めろということのようだ。
明日あたり発表されるこのイベントを華が知っていたのは、月宮先生と日向先生が話しているのを偶然聞いたかららしい。
「華はペア決めたの?」
「んー、まぁぼちぼち。アイドルのペア探すのと違って作曲家は好みが別れるから競争率は低いんだよねー」
「へぇ…」
華もちゃんと考えている。
おそらく友ちゃんもだいたい目当ては決まっているのだろう。
春歌は…まぁ黙っていても誘いは来そうだ。
問題は、私。
正直ペアを決めることなんてすっかり忘れていた。
組みたい相手はもちろんいるけど、彼とそんなに曲を作ってきていないのがここにきて壁となるとは。
「はもちろん、レンくんでしょ?」
「へっ?!ななな何で?」
「分かり易っ!!…だって何か2人相性良さそうだし。ならレンくん預けても良いかなって」
預けるという言い方が彼女らしい。
私が彼を好きだと言っても彼女の態度が変わらないのはこういうところに理由がある。
誰が相手でも負けない、そう思えるほどの強い想いがあるから。
「でも、向こうがどうか分からないから」
それでも彼と組めるようつい祈ってしまう。
暗雲のせいで、星は1つも見えなかった。