Let's play our music!【うた☆プリ】
第15章 あの人の正体
「先程…似ていると言っていたのは?」
「あぁ、あのね。私はアイドルなんて目指してなかったの、こんなこというと怒られるかもしれないけど」
「では、どうして?」
「麗奈が、ね。2年間だけやるのが条件だった」
望まぬことを要求され、それに応えざるを得ない状況。
そして望むことをやる時間が削られていく焦燥感。
その気持ちは、よく分かるのだ。
「まぁ、私は歌うことも楽しんでたから全部が同じってわけじゃないんだけど…」
「…あなたは、どうして楽しめたんですか?」
「え?」
「本当は作曲家になりたかったのでしょう?それなのになぜ」
「…そこはやっぱり、あれじゃない?」
わからないと言うように首を軽く傾ける彼に私は告げる。
「音楽って、楽しいからだよ」
とても単純なことを。
「音楽に触れていると、それだけで私は楽しいの。その中で作曲を選んだのは色々あるけど…でも他のことだってやっていたら気付けば笑顔だった」
「…」
「一ノ瀬さんは、音楽好き?」
「っ、勿論です!」
なら良かった。
そう言って笑う私につられて、一ノ瀬さんも笑みをこぼす。
その様子が、先程とは少し違って見えたから、少しは役に立てたのかなと思えた。
「…あ、雨…」
軽く額に当たる水滴。
空を見上げるとどんよりと黒い影が空を覆っていた。
「酷くなるかもね…中に入る?」
「いえ、私はこれから仕事なので」
「そっか、じゃあまた明日ね!」
これから仕事だったのか。
引き止めてしまったことを少し後悔しながら、彼の元を去ろうとする。
「あの、」
それを、彼自身に制された。
「?どうしたの?」
「…また、お話ししても良いですか」
「もちろんだよ。クラスメイトじゃなくなったけど、友達だし仲間だしね」
私はこの2つの単語に随分とこだわる。
それは私が彼らに助けられたからだし、その存在がどれほど大きなものか実感したからでもあった。
だから、私もあなたを助けたい。
「ありがとうございます、」
「…ふふっ、いってらっしゃいトキヤ!」
彼が変えた呼び名に従って呼んだ名は、彼を再び笑顔にした。
小気味良くなった私たちのハイタッチの音と共に、彼は雨のなかを駆け出していった。