Let's play our music!【うた☆プリ】
第15章 あの人の正体
「一ノ瀬さん…っ!」
「さん…何か用でも?」
一ノ瀬さんが降格を言われたそのレコーディングに偶然立ち会っていた私は、終了後どうも放っておけずに彼を追いかけていた。
「少し、私に時間くれない?」
「…構いませんが」
それが何故かと問われると、少し言葉に詰まる。
でも1つだけ言えることがあった。
私は、彼にどこか親近感を湧いていたのだ。
一ノ瀬さんと一緒に向かったのは、以前も彼と話したことのある湖のほとり。
地面に腰掛けると、彼もまた隣に並んだ。
「…っ」
一瞬、顔を歪めて。
「…足、怪我してるの?」
「えぇ、少し。けれど大丈夫ですよ、この程度」
「…そうですか」
彼としてはそこにあまり触れられたくないらしい。
それでご用件はと強引に話題を変えてきた彼に、さらなる追求をするのはさすがに気が引けて、おとなしく要件を話すことにした。
切り込みは率直な質問から。
「一ノ瀬さん、今歌っていて楽しい?」
「…」
答えは沈黙。
そうだと思う、予想は出来ていた。
今この人は、昔の私と同じ状況にいるのだろう。
「なぜ、そんな事を?」
「今日のレコーディングの時に、ふと感じたから。何だか、物凄く苦しそうに見えたの」
「……分かりますか」
彼自身、自覚はある。
でもその解決の出口が見えず、彷徨っていたら期限が来てしまった。
もどかしいだろう。
「分かるよ…昔の私そっくりだもの」
望まぬレッテルを貼られ、求めていないことをやらされる。
それでもいつも応えようとして努力を重ねたこの人は立派だ。
なのに、一番やりたいことで評価が得られない。
求められていることに応えられないのが、やりたいことだなんて皮肉な話だ。
「どうしても、一ノ瀬トキヤとして歌おうと思うと…ダメなんです」
「…それは、あなたがHAYATOだから?」
「どうでしょう…やはり、あなたには気付かれていましたか」
「足の怪我で、なんとなく…ね」
以前ここで彼と会話をした時も、腰掛ける時彼は足に痛みを感じているようだった。
そこからぼんやりと考えていたことなので、カマをかけてみたら思ったよりあっさりと彼は白状する。