第5章 あなたを追いかけて HQ 岩泉夢
その瞬間、兄が誰にボールを渡すのか私はわかっていた。
ボールが柔らかい軌道をたどりつつ彼の手のひらに吸い込まれる。息をのんだ。
彼は渾身の力で相手コートにボールを叩き込んだ。――叩き込もうとした。
けれど、恐ろしいほどの反射神経で相手側の選手の手が現れた。彼の放ったボールを青城側に撃ち落としていた。
無情にもホイッスルが鳴る。点数ボードが白鳥沢学園の勝利を示していた。
白鳥沢の応援が湧き上がる。
歓声の中、私は奇妙な光景を見た。白鳥沢の選手たちは機械みたいな動きで相手選手に礼をする。
彼らに勝った喜びみたいなものを感じられなかった。それが当たり前みたいな顔してコートから去っていった。
兄や彼は死ぬほど悔しそうな表情をしているのに。兄や彼が負けるのが当たり前みたいに。私はすぐに白鳥沢学園が大嫌いになった。
スポーツは非情なものだと改めて知った。