第5章 あなたを追いかけて HQ 岩泉夢
だが、それも今日で終止符を打つ。
私は今、とある会場に来ている。
飛び交う声。あちこちから聞こえる応援。今日はここで高校バレーの本戦が行われている。
入り口に立っているだけなのに、会場中の熱気に当てられそうだ。兄からのいいつけで試合を見に来てはいけないと言われているが、私は初めて兄のいいつけを破る。私はひっそりと足を踏み入れた。少しの罪悪感を抱えて。
そして私は目の前の光景に息をのんだ。
中は戦場だった。
仲間で声を掛け合い、一つのボールを渡していく。ボールを強打し、相手側コートに叩き込む。
相手はレシーブし、スパイクをしてきたところをブロックする。そんなことをボールがコートに落ちるまで続けるのだ。
息を切らしてだんだんと重くなっていく体に鞭をふるって動き回る。動き続けるのを止めてしまえば、負けにつながる。そんな場所だった。
兄と彼はコートの上で戦っていた。
相手側の強烈なスパイクをレシーブして必死にボールをつないでいく。点数を見ると青葉城西は今回のセットを取れないと負けてしまうことに気が付いた。相手は白鳥沢学院だ。
一瞬にして私の高揚していた気持ちが冷える。点を奪われる度、心臓をもぎ取られるような痛みがはしった。
兄がどんな思いでバレーをやっていたか私は知っている。暇があれば体を動かし、見ているこちらが苦しくなるほど努力していたこと。一時期なんて玄関のドアを開けた瞬間気絶するように寝てしまったこともある。
けれど、私の想像していたものとは全然違う。もっと華やかでキラキラしているものだと思っていた。兄がとても華やかでキラキラ光っているような人だから。でも、目の前のものは違う。
一点一点が血のにじむような努力で相手からもぎ取るものだと初めて実感した。
兄と彼はこんな場所で戦っていたのだ。ずっと、ずっと。
私は思わず手を握り締めた。
点数表示を見ると、後一点取られれば青城は負けてしまう。見ているのが苦しくて目を下げてしまいそうになったが、そうはしなかった。してはならないと思った。
兄や彼のやってきたことを否定するような気がしたから。
ボールが相手コートから叩きつけられる。それを辛くもレシーブし、兄にボールが渡った。