第1章 純粋な死神 グール 鈴屋什造
噂は真実のように語られるようになった。あいつは変人だから。やると思っていた。人も殺すんじゃないか。なんて言葉がちらほら聞こえるようになり、鈴屋はますます孤立した。
そんな噂なんて私にとってなにも興味を抱かせなかったが、孤立する鈴屋の反応はよく見ていた。
彼は特に前と変わらず生活していた。私と同じように興味がないのかもしれない。自分のことに対しても。
だがある日、私は彼が血のしたたる子猫をもって暗い木陰に行くのが見えた。
その時のゾワリとした感触を私は今でも覚えている。
本当に彼が殺したのかと思い、私は好奇心に駆られてこっそりとついていった。
鈴屋が立ち止まったのは人気のない林の中だった。鈴屋の足元には数匹の動物の遺骸があった。
これを全部彼が殺したのかと思うと噂は本当だったのかと思ってしまう。
すると次に鈴屋は意外な行動を取った。
鈴屋は中座して持っていた猫を他の遺骸と一緒に並べて頭をなでたのだ。
「お疲れ様でした。安らかにねむってください」
手を合わせ慈しむ姿に、私は胸の内にどす黒いものが渦巻いた。それがなにかわからないまま鈴谷のもとに歩いていく。彼は気配に気が付いていたのか、なんにも反応しない。
「あなたが殺したんじゃないの?」
自分でも驚くほど怒りの混じった声がした。自分の声なのに驚くなんて滑稽だが、私はそれほどに内面が揺さぶられていた。
「殺してませんよー」
鈴屋はあっさりと言い切って、私の顔を見て笑った。
「あなたが怒ったの初めて見ましたーぶっさいくな顔ですね、アハハ」
「怒った? 私が? ありえない」
あの日から私は感情など持ち合わせていないのだ。怒りなんてどこかへおいていってしまった。すると鈴屋はにへらっと笑っていた。
「ア八ッ無自覚って怖いですー」
なぜだか私は妙に高ぶりを感じている。これが怒りというものだっただろうか。
けれど鈴屋は私などまったく興味が無いようで、そこらへんに置いてあったスコップで土を掘り始める。
「なにしてるの?」
「お墓作るんですー。野ざらしなんて寒いでしょうから」
私はついに混乱を始めた。殺した人間が慈しむようになでたり、お墓を作るだろうか。そういえば噂が立った時鈴屋はなにも反論しなかった。したともしてないとも言っていない。