第5章 あなたを追いかけて HQ 岩泉夢
兄には小学校からいつも一緒にいる友達がいる。
その人は目が鋭くて、一見近寄りがたい人。男らしくてぶっきらぼう。兄とは正反対な人。
彼は兄と同じでバレーが大好きで兄と同じ目線で立てる人。
――私の気になる人。
彼について兄に尋ねると決まって小憎たらしい顔で笑う。
「岩ちゃんはね、オレにとって最低で最高の友達なんだよ」
兄はこういう含みのある言い回しが大好きだ。相手にニュアンスは伝わるけれど、真意までは伝わらない。相手に勝手に想像させて、正解を尋ねても何見言わずに微笑むだけ。自分の意図を隠してしまう天才なのだ。
だから、私はいつも彼のことを想像するだけで、実際の所何も知らない。
関わるのはたまに家にやってきた彼に最低限の挨拶とお茶を部屋に持って行くぐらいだ。
彼に話しかけようとすると決まって兄が邪魔をする。しかも、さり気なく私を追いやるので誰も気づかない。
だが、私もそれなりの努力はしたつもりだ。兄がトイレに行ったのを見計らって部屋に行くこともある。
しかし彼が寝てしまっていたり、私が躊躇している間に背後から兄に肩を叩かれる。
意を決して彼に渡すために作ったありとあらゆるものを兄は食べたり自分のものにしてしまう。小百合ありがとねー、なんてものすごくいい笑顔でのたまうのだ。計算尽くされた兄の行動が激しく憎たらしい。
その子供じみた独占欲のせいで、私はこの想いを告げられずにいる。