第21章 赤い夫との結婚
料理長が出て行ってから私たちの間に無音の空間が広がる。
「…………」
『…………』
どう…しよ……。こういう時って何話したらええの?
私は悶々と会話を探すために考えていた。
『あ、あの…………』
「ん?なんだ?」
手のひらに顎を置いて外の夜景を覗いていた征十郎が私へと視線を向ける。
『今日はここへ連れてきてくれてありがとう』
「まだ料理を食べてないのに言うのか?そんなに会話を探さなくていい。俺は美桜といれるだけで楽しいよ」
征十郎は少し目を細めて言った。
……。赤司くんてこんなにサラッと言う人やったっけ……??
私はまたドキドキと五月蝿く鳴っている心音が気になりつつも過去の事を思い出す。
『うん。私も楽しい…………』
むっちゃ動悸するけど。
そこは心の中で止めておいた。
「良かった」
征十郎は安心したような、嬉しいような、そんな笑顔を私に向けた。
ドクンッ
私の息が一瞬止まった。他人から、征十郎から見れば一瞬だっただろうが、私には数十秒に感じた。
な、に……。息が…くるし…………「美桜?」
征十郎の呼び声ではっと我に返る。
「大丈夫か?しんどいのなら無理しなくていい」
『う、ん。大丈夫。ちょっとお手洗い行ってくるね』
「ああ。突き当たりを右だよ」
『ありがとう』
私はそう言うとトイレに駆け込んだ。