第10章 10
「あの時、俺に言ったこと。…俺のことをもっと知りたいって、俺はその言葉を本気にしてもいいのか?」
「…あの言葉に、嘘はありませんから」
まもなく搭乗時刻がすぎるアナウンスが聞こえてくる。
私は慌ててカバンから手帳を取り出し、メモを1枚ちぎり取る。
「朝日奈さん。すみません。もういかないと…。これ、日本で連絡のつくアドレスです」
いつの日か、朝日奈さんが私にしてくれたように、自分のメールアドレスのメモを朝日奈さんに託す。
名残惜しそうに朝日奈さんが私から身を離した。
「…また、会えますか?」
「さくらさえ…いや。また会えるよ。絶対に」
その言葉に心の底が震えた気がした。
「…じゃあ、また」
これ以上朝日奈さんを見つめていると、動けなくなってしまいそうだった。
私は朝日奈さんから目をそらし、背を向け搭乗口に向かった。
「さくら!」
必死に呼ぶ声に弾かれるように朝日奈さんの方を向く。
『愛してる』
周囲のざわめきに掻き消されてよく聞こえなかったが、口元はたしかにそう動いたような気がした。
これ以上、いけない。
私は何も答えず、搭乗ゲートをくぐった。