第8章 8
「今日、休み?」
「えぇ、一応…」
「ふーん…」
朝日奈さんが一瞬思案顔になったかと思えば、すぐに何かを思いついた顔に変わった。
ようやく上体を完全に起こせた、そう思った瞬間ベッドに仰向けに倒れることになってしまった。
朝日奈さんに組み敷かれるような形で。
「あ、朝日奈さん…?」
「男の目の前で酔っ払った女が一人。優しい男は一晩、何も手を出さずに休ませてあげた」
見たことのない、熱に浮かされたような表情だった。
「あの…」
「最低な男だよ。俺は」
朝日奈さんは苦しそうにつぶやき、私を解放した。
「朝日奈さん…」
私はゆっくり起き上がり、朝日奈さんを呼んだ。
「昨日は酔った勢い、みたいになってしまってたところがありましたけど、昨日自分が言ったこと、私はちゃんと覚えてます。…多分。そしてそれに嘘はありません」
頭痛を抑え込むように、ゆっくりと深呼吸をする。
「…私は、朝日奈さんのこと、なんにも知らないです。女の人の朝日奈さんとはたくさんおしゃべりしましたけど、男の人の朝日奈さんとはあまりお会いしたことがありません。もし、女の人の朝日奈さんがほんとうの朝日奈さんなら、こんなに幸せなことはありません。でも」
ちらりと朝日奈さんの表情を見る。
朝日奈さんは私から目をそらしたままだった。
「でも、もし、ほんとうの朝日奈さんが男の人のほうにあるのなら、私はその朝日奈さんも知りたいです…なんて、私、何言ってるんでしょうね」
まだ酔ってるのかな。
そんなことをつぶやいてごまかした。