第1章 1
「そうなんですか…。すごいな。尊敬します」
「なんで?」
髪から目を離し、朝日奈さんは私の方に向き直る。
「私、創作が出来ないんです。用意された台本、用意された曲、用意された衣装…それらをすべて身に纏って、用意された道筋を歩く。そこに自分の個性は出ますけど、それだけなんです。新しいものが生み出せなくて…。だから、曲を作る人はもちろん、絵を書く人、朝日奈さんみたいに物語を書く人ってとても憧れるっていうか…」
初対面の人に何を語っているのだろうか。
私は急に恥ずかしくなって顔を伏せた。
「あなた、面白い子ね。気に入ったわ。これも何かの縁なのでしょうね。アタシ達、友達にならない?」
朝日奈さんはニコニコと嬉しそうにそう持ちかけた。
「…ぜ、ぜひ!朝日奈さんともっとお話したいです!」
身を乗り出してそういうと、朝日奈さんは手帳に何かをメモしてそれを剥ぎ取り私に渡した。
「アタシの連絡先。後でいいからメール送っておいて。今日はもうそろそろ出なくちゃいけないの。また会える日を楽しみにしてるわ」
朝日奈さんは椅子から立ち上がり、服を整えた。
「じゃ、またね、さくら」
彼女は手を蝶のようにヒラヒラと降り、さっそうとオープンカフェを出て行った。
「…素敵な人だったな…」
綺麗な筆記体のアドレスのメモを大事に手帳にしまった。
「よし!午後も頑張ろう!」
私は気合を入れ直し、学校に戻った。