第1章 1
一日の授業を終え、アパートに戻る。
シャワーを浴びて部屋着に着替え、ベッドに横になる。
「そういえば…」
私はカバンの中から携帯と手帳を取り出し、手帳の中から小さなメモを取り出した。
携帯でメールを起動し、メモに書いてあるものを打ち込む。
メールに一言を添えて送信する。
「これでよし」
用のなくなったメモを捨てようとしたが、そこに書いてある綺麗な筆記体が私の心をつかんで離さない。
「…とっておく、なんてちょっとヘンかな…?」
私はそのメモを手帳の最後のページにこっそり挟み込んだ。
すると、携帯がメールの着信を告げた。
「Caro carina.(かわいこちゃんへ)
Grazie per la tua e-mail.(メールくれてありがとう)
Ci vediamo prossimamente.(近いうちにまた会いましょう)
Buonanotte.(おやすみなさい)」
「えーっと…」
昼は日本語で喋っていたから、つい日本語で来るものだと思っていたが、先ほどの一言もイタリア語で書いていたことを思い出す。
イタリアの携帯電話なのだから、イタリア語でくるのはわかりきっているのに、なぜだか日本語で返事がくる気がしていたのだ。
頭をイタリア語に切り替え、ゆっくり読んでいく。
「…かわいこちゃんへ…? ありがとう…メール…メールくれてありがとう、か…。vediamo…vedere…私たちは見える…?ううん。会いましょうだ!近いうちに、また会いましょう…。おやすみなさい。こんなところかな?」
ふぅ、と一息つき、再び携帯を眺める。
まさかイタリアで日本人の、それも小説を書く人と知り合えるなんて思ってもいなかった。
「うれしいな…」
近くに日本人の知り合いはいなくて、半年間少しだけ心細かったのだ。
朝日奈さんとはぜひ仲良くなりたい。そう思いながらゆっくりと眠りに入った。