第7章 7
さくらのグラスの酒が半分になると、さくらは、ふぅ、と息をつき、グラスをそっと遠ざけた。
「よく飲むのね。嫌なことでもあった?」
いたたまれなくなって思わず女の口調で話しかけてしまった。
「男の人の姿でも、そんな風にしゃべるんですね」
「そっちの方が喋りやすいかと思って」
女性的な笑みを浮かべて取り繕うが、心のうちは後悔ばかりがじわじわとにじんでいた。
「…私が落ち込んでいる時、朝日奈さんは必ず女性になって接してくれますよね。…いえ、たまたま女装されてるときに会うことが多かったから、というのもわかりますが…」
さくらは顔を伏せながらとつとつと語る。
ちがう。そうじゃない。
もっと不純な気持ちなんだ、これは。
さくらが思っているほど聖人でも、単純でもない。
「どんな人にもそうなんですか?朝日奈さんが昔出会ってきたすべての人に、そうして都合よく接していたんですか?…もし、もしそうならこれ以上何も言いません。でも、そうじゃないって、なんとなくですが、そう思うんです」
お酒の力なのか、さくらはいつもよりもキツく質問を投げかける。
俺は耐えられず、向こうを向いて一口、お酒に口をつけた。
「根拠は?」
思った以上に冷たい声が出た。
「ありません…」
ぼそ、と小さく、しかしはっきりと彼女は答えた。