第7章 7
あの人はほんとうの夢を叶える事ができなかった。
それは決してあの人自身のせいではない。
取り巻く環境が優しいあの人の夢を叶えさせなかったのだ。
しかし彼女はどうだろう。
夢を叶えられるだろうか。
「どうかしましたか?」
そう声をかけられて、しばらく一人で考え事をしている自分に気づいた。
「あ、ごめん。まぁ、俺の近況はそんな感じ。あらためて、さくら。本当にいい演奏だった。真面目で面白みがない、なんて嘘みたいだったよ」
「ありがとうございます。今日は、まぁ、いろいろあって、心の底から歌えた気がします」
いろいろ。彼女にしては的を射ない答え方だった。
いつも自分の言葉で自分なりに自らの事を伝えてくれる彼女だからこそ、強く違和感を覚えた。
「いろいろ?」
「そう、いろいろです」
言葉を重ねて問うが、彼女はこれ以上踏み込ませない、と強く言葉を返してきた。
そして彼女はスプマンテを一気に煽る。
「さくら、そんなに一気に飲むと体に悪いから…」
「いいんです。たまには、今だけ」
「たまにでもよくないって」
こんなヤケなさくらは初めて見た。
考えすぎかもしれないが、俺の態度もなにか影響を与えているのだろうか。
胸がチクリと罪悪感で痛む。
そして彼女はグラッパを頼んだ。
さすがにグラッパは一気に飲むことはせず、ゆっくりと飲んでいた。