第7章 7
「そう」
なんて最低なんだろう。
俺は断ち切ってもらったはずの昔の人の事を引きずっていて、その人の代わりをさくらにさせている。
きっと薄々気づいてたはずなのに問い詰めず、沈黙を持って包んでくれたさくらの優しさに甘んじて。
それを遠回しとはいえ指摘され、勝手に動揺して、冷たい態度を取るなんて。
「私はいつでも私なのに、朝日奈さんは、朝日奈さんさんでいてくれないなんて…ずるいです…ほんとうの朝日奈さんを、私にはみせてくれないんですか…?」
自分のエゴでそばにおいていただけなのに、彼女はそれを知ってか知らずか彼女自身から俺のことを知りたいと言う。
俺をみてくれようとしているなんて。
心が揺れる音がする。
「…すみません。何も知らないのに…」
そう言ってさくらはグラッパを大きく一口飲んで机に伏せた。
「…さくらが、謝ることじゃない」
さくらはトロンとした目でこちらを向いて微笑んだ。
「そう。女の人の朝日奈さんじゃない、そのままの朝日奈さんで…」
彼女はきっと、勘違いをしている。
ほんとうの俺はもっと不純でゆがんでいる。
愛した女をどうしてもそばに置きたくて、自分を偽って友人のふりをし続けた。
その罪を償うために
「なぁ…それでも…ほんとうの俺でも、愛してくれるか…?」
寝息を立てる彼女の頬をなぞり、俺はそうつぶやいた。