第7章 7
「私はいつでも私なのに、朝日奈さんは朝比奈さんでいてくれないなんて…ずるい、です…ほんとうの朝比奈さんを私にも見せてください…」
ずるいのは私だ。
朝日奈さんのことをよく知りもせず、困るような言葉ばかり投げかけている。
朝日奈さんの表情は、ここからはみえない。
「…すみません。何も知らないのに…」
グラッパを一口。
キツめのアルコールが体を巡って思考を鈍らせる。
このまま、泥のように眠ってしまえたらいいのに。
ダメになって行く自分にただただ嫌悪するしかできない。
私はそのまま机に伏した。
「いや、さくらが謝ることじゃない」
男の人の声で朝比奈さんがいう。私は朝日奈さんの方を向いて微笑んだ。
「そう。女の人の朝日奈さんじゃない、そのままの朝日奈さんで…」
そう、もっと、ほんとうのことを知りたい。
取り繕わない、ほんとうの朝日奈さんを。
ふわふわと心地のいいアルコールの回りに、私の意識はふわりとかき消されて行った。