第6章 6
物憂げな和音が響き、曲が静かに終わった。
ざわざわ、と小さな拍手が沸き起こり、次第に拍手は大きくなる。
様々な称賛の掛け声が飛び交う。
嬉しそうなふんわりとした笑みで、客席に答える。
拍手が少し収まった所で、さくらは再び伴奏者に微笑みかけ、伴奏を促した。
跳ねるような明るい曲。
この曲は恋の喜びを朗々と歌うおてんばな女の子の歌だ。
さくらの表情も明るくいたずらっぽい、おてんばな表情に変わる。
あの時寂しそうに語っていた、真面目すぎる、なんて話は何かの嘘だったかのではないだろうか。
それほどさくらは自由に、心から恋を歌っていた。
鮮やかに高音を歌い上げ、華やかにピアノ伴奏がフィナーレを告げる。
間髪入れずに拍手が割れんばかりに巻き起こった。
称賛の掛け声、指笛が囃し立てる。
先程も見せた、いつもの笑顔で客席に何度も何度も礼をする。
拍手に惜しまれながら、さくらは舞台袖に帰っていった。
本当に素晴らしい演奏だった。
華やかに輝く彼女は、俺の遠いところにいるような気さえした。