第5章 5
「…朝日奈さんは一体誰を…いえ…」
…まだ、そんなことまで踏み込んでいい時じゃない。
なんとか笑顔でごまかす。上手に笑えているだろうか。
「泣きそうな顔してる」
「さすが朝日奈さんですね。私、上手に笑えていませんでしたか?…舞台上でなりきってた登場人物が、まだ私の心の中にいるような…そんな感じがして…きっとそういうことなんです」
無理やり言葉を並べて納得する。
いまだ、朝日奈さんの目を見ることは出来ない。
「…なので、お酒でも飲みに行きましょう!打ち上げですよ!すぐに着替えてくるので、ちょっと待っててください!」
これ以上朝日奈さんの前にいると、ダメになってしまう。
私はそう思い、花束を大事に抱え、ドレスを踏まないように慎重に足元を確認しながら急いで楽屋に向かった。