第4章 4
体が冷える前に楽屋に戻って、体を温めてからドレスに着替える。
黒髪が映える、と母に買ってもらった赤いドレスを身にまとう。
化粧を舞台用に整え、鏡の前で挑戦的に微笑む。
私は私だ。想いの丈を歌に込めるんだ。
そう鏡の自分に語りかけ、目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。
普段の自分を吐く息に乗せて、歌手である自分を吸った息に込めて。
私はゆっくりと舞台袖に向かった。
舞台上ではヴァイオリンの女の子が素晴らしい技巧を駆使して演奏をしていた。
ミスなく終え、拍手喝采だ。
彼女はやりきった笑顔で舞台袖に戻ってきた。
「Brava!」(すごかったよ!)
「Grazie! In bocca al lupo!」(ありがとう!あなたもうまくいくといいわね!)
「Grazie,Ciao!」(ありがとう、またね!)
私も、頑張ろう。
軽く頬を叩き、気合を入れる。
伴奏者に微笑みかけ、舞台へと向かった。